ソケットプリザベーションを併用した前歯の審美インプラント症例
ソケットプリザベーションを併用した前歯の審美インプラント症例
こちらの症例は、左上前歯の差し歯がぐらつくという主訴で来院された患者さまです。高校生の頃に歯が折れて差し歯にして、その後何回かかぶせ物の治療をやり直しているとのことでした。何回もとれて不具合があるので、今回はしっかり治療したいとの要望がありました。
初診時の状態
左上1番の歯根が破折しており、グラグラの状態で歯質がほとんど残っておらず、歯を保存することは不可能であると判断しました。外れてしまったかぶせ物は元に戻すことが難しかったため、一時的に人工歯を貼り付けて応急的に対応しました。ここから、この前歯をどのように審美的に回復する事ができるかを検討しました。
カウンセリングで治療方針の決定
当院では、治療を行う前に必ずカウンセリングというお話し合いをする時間を設けております。患者さまのご要望をしっかりとお聞きして、当院で可能な治療方法をいくつかご提示させて頂き、それぞれのメリット・デメリットや治療期間、治療費などをご説明させて頂いた状態で、患者さまがご要望に沿うものを選択していただくという流れです。
この患者さまは、保存不可能な左上1番の歯を抜歯した後の欠損に対して、「周りの歯を大きく削ったりはしたくない」「前歯なので審美的に美しくしたい」という要望がありました。
患者さまの要望と患部の状態、当院で可能な治療技術を考慮した結果、左上1番に対しては抜歯と同時にソケットプリザベーション(抜歯窩に人工の骨を填入する方法)を用いて、骨のボリュームをキープし、治癒後にフラップレスインプラントOPE(歯茎を切らずにインプラントを埋入する術式)で治療する計画としました。
また、元々前歯と前歯の間に隙間がある状態のため、歯の大きさのバランスが悪く、このまま左上1番にインプラント治療をするだけだと、歯の大きさのバランスが悪く、審美的な治療は難しいと判断し、右上1番と左上2番にレジン充填を行うことで、歯の大きさを整え、歯の大きさのバランスを良くする事で審美的に治療を行う計画としました。
【治療方針】
・左上1番:抜歯+ソケットプリザベーション フラップレスインプラント
・右上1番、左上2番:コンポジットレジン充填
抜歯・ソケットプリザベーションの実施
周辺の骨や歯茎を傷つけないように慎重に抜歯を行った後、感染物を丁寧に除去し、メンブレン(人工膜)と人工骨を歯を抜いた穴に填入します。その後、仮歯で穴を上から封鎖して治癒を待ちます。
レントゲンで骨が填入されているのがわかります。抜歯をしてそのままの状態では、治癒する過程で骨が吸収してしまい、インプラント治療をするための条件が悪くなってしまいます。ソケットプリザベーションを行うと骨吸収量を抑制し、インプラント治療を行うのに有利な条件を確保できます。
ソケットプリザベーション 6ヵ月後
ソケットプリザベーションを行なって6ヵ月経過した状態です。ここから、インプラントを正確に埋入するためのシミュレーションを行なっていきます。
インプラントOPE前診断およびコンピューターガイド作成
術前にCT検査を行い、口腔内の模型とデジタルデータ上でマッチングさせることで、実際作成したい歯の下に、インプラントを埋入できる骨があるのかを正確に判断することができます。
このデータ上で埋入シミュレーションを行い、インプラントを適切な位置に埋入するためのコンピューターガイドを作成します。精密な診査・診断を行った結果、この患者さまは、フラップレス(歯茎を切らない)インプラントOPEが可能と判断し、治療を進めていく事としました。
フラップレスインプラントOPE(コンピューターガイド使用)
事前にシミュレーションしたポジションに適切にインプラント埋入するために、コンピューターガイドを用いてインプラント埋入を行いました。
前歯部インプラント治療を審美的に仕上げるには、適切なポジションにインプラントを埋入できるかどうかがポイントです。1mmズレるだけでも前歯では審美性に大きく影響します。
当院では、コンピューターガイドを用いることで、ズレる事なくインプラントが埋入できるようにOPEを行っております。フラップレスでインプラントOPEを行ったため、低侵襲な外科処置でOPE時間も短く、かなり患者さまの負担を少なくする事ができました。
インプラント埋入と同時に仮歯のセット
抜初期トルクというインプラントによって最初に骨にかかる力が一定数を超えると、インプラント埋入と同時に仮歯を装着することができます。事前に準備しておいた仮歯のパーツを用いて仮歯を作成し、セットしました。
この状態で、インプラントに過剰な力がかかってしまうとインプラントが骨とくっつかない可能性があるため、噛んだ時や歯をずらした時に当たらないように作成するのがポイントです。
歯のバランスを整えるレジン充填
治療計画で考えていたとおり、インプラントの仮歯は最終的な歯の幅に合わせて作成していたので、歯と歯の間に隙間が空いています。もしも、この隙間を埋めるようにインプラントの仮歯を作ると、その歯だけかなり幅が広い歯になってしまい、バランスが悪く、見た目も審美的ではありません。
そこで、最終的に歯のバランスが整うように、インプラントの隣の歯にレジン充填という処置を行い、幅と形態の改善を行います。
最終補綴物シェード修正
この方の歯の色は特殊で、マダラ模様になっていて、色を合わせるのが非常に難しい症例です。当院では、審美的な回復のために前歯の色を合わせる場合は、1〜2回の色合わせ修正を行います。
最終補綴物セット
1番目立つ前歯の部分は、色や形態のクオリティーにこだわって作成することで、最終的な患者さん満足度は全く違ったものになります。
治療前後の比較
【術前の状態】
【術後の状態】
前歯をインプラントで審美的に回復させる事は非常に難易度が高いです。歯がなくなったからといって、ただインプラントを埋入して歯を作るというのではなく、前歯のバランスを考えた形態の改善、及び天然歯を模倣した色にこだわって、最終的には美しく治療を終えることができました。
インプラントを含めた前歯の審美治療が終了し、患者さまからは「自然で綺麗な歯になり、しっかりと噛めて、とても満足しています。この歯を大切にしていきたいと思います。先生をはじめ、スタッフの皆さんから暖かい温もりが感じられ、不思議と治療に来ることが楽しみになりました。本当に感謝の気持ちで一杯です。」という非常に嬉しいお言葉を頂きました。
年齢/性別 | 60代/男性 |
---|---|
治療期間 | 11ヵ月 |
治療回数 | 8回 |
治療費 | 748,000円(税込) |
リスクなど | ・インプラント手術後は内出血をはじめ、まれに唇、舌、頬、歯肉そして歯牙の感覚マヒが一時的に発生する場合があります。 ・処方された薬剤の服用により吐き気、めまい、など一時的な副作用が現れることがあります。 ・部分的に強い力がかかると、つめ物・かぶせ物が破損したり、脱離したりする可能性があります。 |